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    4-7-2009

    幻想9「神隠し」

      煙突はどこへ行ったのだ。家々の屋根からつくつくと生えていた煙突はどこへ行ってしまったのだ。縁台も、風鈴も。そもそも大人たちはどこへ行ってしまったのだろう。どこもかしこも子供ばかりじゃないか
     もしかすると僕たちは神隠しにあっていたのだろうか。そう。この街は、唐突に異世界から戻ってきた子供たちばかりがあふれているに違いない。異様だ。大人たちはとうの昔にもうみんな死んでしまったのだろう。
     だが、不思議なのは一体の死体もないことだ。骨すらも発見できないのだ。もっとも、どこか別のところで生き続けている可能性がないではない。たとえ、絶滅寸前の人数しか残っていなかったにしてもだ。これを捜索するかどうかについての議論は大きく二分して今日に至っている。
     間違いないのは、分からず屋で頑固な大人はもうここにはいないということだ。ずるい大人もいなければ、子供に厳しく自分に甘い大人もいない。天国のような世の中じゃないか。
     誰もがこう考えて、はじめは見慣れぬ街の様子に戸惑いはしたものの、まるで自分たちが天下でもとったかのように喜する者も出始めた。もちろん、次の日には絶望に言葉を失うことになるのはわかっている。大人あっての世の中だったのはどの子供も了解していることだった。
     まず食わねば。着る物はどうする?半分朽ちたようなこれらの町並みで安全に暮らすにはどうすればよいのか?ギャングと化した子供たちもいるなかで、どう自分の身を守ればよいのか?まず発電所を動かさなければ……。
     ともかく、リーダーには誰が立つべきか?そうだ。選挙をしよう。誰を候補にたてるのだ。だいたい選挙というのはどのように進めたらよかったのか。どんな法律に従って進めていったのだろう?
     あれやこれやしなくてはならないものが、僕たちの目の前に山積みになっていく。あれほど疎ましく思っていた大人やら決まりやらが、実はいかに頼りがいのあるものであるかを思い知らされる毎日だ。
     そうこうしている内にも仲間が殺されていく。何か新しいグループが勝手にできたようだ。必要な人材なのだろうか、拐かされる者もでてきた。
     警察などはもうないのだ。警察署は残っているが、警察官は全部大人だった。今、生き残っているはずはない。憎まれ役は彼ら大人が請け負っていたことを実感するのは、悔しくもあり、ありがたくもあった。
     今目の前に子牛が一頭現れたとしても、いったい誰が肉にするのか。それだけでおそらく何日も議論をしなくてはならない僕たち子供という存在は実に滑稽な存在になってしまった。
     そもそもなにがこの世に起こったというのだろう。すべての子供がいなくなって、この世は滅びたのだろうが、ほかの街や国も同じなのだろうか。
     僕たち子供だ神隠しにあったのか、それとも子供たちを残して世の中や大人たちの方が消えてしまったのだろうか。世の中だけが戻ってきて、大人はまだ戻れずにどこかわからない世界をさまよっているのだろうか。
     すべては推測の域を出ない。ただただ目の前に広がるのは、子供たちばかりの無法地帯。地獄のようだ。大人たちの圧力や監視によって秩序というものが成り立っていたのはわかった。汚れ役や憎まれ役のいっさいを請け負ってくれていたのもよくわかった。
     純粋な子供ばかりであれば純粋な世の中になるだろうと、思いこんでいたのだが、実際にそうなってみると、純粋などというものは微塵もなく、自分の欲望に関してのみ純粋であったということが、暴露されてしまった形だ。
     僕たち子供が正直でありえたのは、正直であることによって受ける攻撃を守ってくれる大人がいたからだ。また、守ってくれる法律があったからこそだ。
     だからといって大人が偉い訳じゃない。子供の時にそうしてもらったように、同じようにしていていただけだろうと思う。理由付けとして愛情とか義務とかいいつつも、ただなんとなくそうしていただけに違いない。
     しかし、今となってみれば、そうしたことすら崇高な行為に思われてくる。
     生きるということは、生きることに意味があるのであって、他に何をしたかではないのかもしれない。自由を勝ち取ることに生きる意味を見いだしていた人は、自由を勝ち取った後はどうするのだろう。自由に暮らすというのだろうか。いったいそれに何の意味があるのだろう。
     だからといって自由を束縛されていることにも我慢がならない。束縛の意味を知ることが自由を得ることになるのだろうか。それとも、束縛する者を排除することが自由を得ることなのだろうか。
     ともかく子供だけで暮らさなければならなくなった僕たちには様々な混乱が生じている。これは大人たちだけになった人々にも訪れているだろう混乱とはどのように違うのだろうか。
     いずれにせよ、この異常事態が僕たちを成長させてくれるのは間違いないことだ。しかし、それは僕たちが大人になるということなのかもしれない。

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